前回に引き続き、今回も、本ブログでは、日本人の英語学習をテーマとした内容を書きます。

前回は、私たち日本人が英語のリスニングが苦手な理由は3つあると述べました。そして、そのうちの1つである「前から力」の欠如について、触れました。今回は、リスニング力アップに不可欠である、この「前から力」をどのようにして伸ばしていくかについて、ご紹介したいと思います。

まず、「前から力」とは何かについて、簡単に復習します。「前から力」とは、英語を、英語の語順通り、意味を把握し、解釈していく力のことです。

英語と日本語は、主語、述語、修飾語といった文章を構成する要素の語順が異なります。英語では、主語(誰が)、述語・動詞(どうした/どうだ)が必ず先に述べられ、そのあとに、より詳しい情報が付加されていきます。一方で、日本語は、主語(誰が)のあとに、時に長々と、修飾語が述べられ、最後に、述語・動詞(どうした/どうだ)がきます。

そのため、英語を理解していくうえで、さらに、英語のリスニング力を高めていくうえで、英語を前から、語順通りに、意味を把握していく力、つまり「前から力」は決定的に重要です。英語を読む際は、自分のペースで、頭の中で、語順を入れ替えながら理解していけば済むのですが、英語を聴く、つまり、リスニングの際には、相手の話している英語を、相手のペースのまま、前から瞬時に意味をとらえていく力がないと、周回遅れになってしまいます。

逆に、「前から力」が伸びていけば、ネイティブスピーカーがどんなに早口でしゃべろうとも、意味を解釈していくことができます。英語と日本語の語順の入れ替えで手間取ることなく、英語を英語の語順のまま解釈できるようになります。そのことからも、「前から力」とは、まさに「英語脳」といってもよい力です。

ここで、では、早口のネイティブスピーカーの英語を聴き取ること可能にする「前から力」は、どのような学習で伸ばしていくことができるのでしょうか?

それは、「前から読む」に、徹底的に取り組むことです。英文を「読む」ときに、英語の語順どおり、前から意味をとらえる訓練をしてさえすれば、英文を「聴く」ときにも、英語の語順どおり、前から意味を解釈することができるようになります。リスニング力を高めるための訓練は、実は、単に、ひたすら「聴く」ことで高まるのではなく、むしろ、しっかりと正しく「読む」力を高めることにあります。

それでは、「前から力」を鍛えるために、英語をどのように読めば良いでしょうか?VERITASでは、「サイトトランスレーション」と呼ばれるプラクティスに取り組みます。これは、通訳さんの業界では「サイトラ」と短縮されて知られている訓練方法です。

「サイトトランスレーション」は、sight translationと書きます。sight(見てすぐの、初見での)、translation(訳)という意味で、英語の語順通りに、前から目にした英文を、その場で解釈していくことを表しています。慣れないうちは、英文にスラッシュ「/」マークを入れて、意味を区切りながら、読んでいくことも有効です。

前回のブログで紹介した英文をもとに見ていきましょう。

①原文:
It's not uncommon for Fountain Hills residents to go to a neighboring town for a special cultural event, as we are a fairly small town.

これを「サイトラ」していくとどうなるでしょうか?英文にスラッシュ「/」マークを入れて、前から、簡単な日本語で意味を表現していくと以下のようになります。

②サイトラ:
It's not uncommon / for Fountain Hills residents / to go to a neighboring town / for a special cultural event, / as / we are / a fairly small town.

それはまれなことではない / ファウンテンヒル町の住民にとっては / 近隣の町に足を運ぶことは / 特別な文化的イベントのために / なぜならば / 私たちの町は極めて小さいからだ

これを、日本語の語順通りに並べ変えると、以下のようになります。

③訳文:
ファウンテンヒルはとても小さな町のため、この町の住民にとって、特別な文化的イベントのために、近隣の町に足を運ぶことは、まれなことではありません。

①の英文が頭に入ってきた際に、①→③に転換している間は、解釈に時間がかかってしまいます。つまり、英語を「読む」際には、時間がかかり、英語を「聴く」際には、ネイティブスピーカーの話すスピードに置いていかれて、周回遅れになります。

一方で、①→③をせず、①→②で英文を解釈することができれば、解釈に時間はかかりません。つまり、この①→②のアプローチによって、英語を「読む」際には、速読が可能となり、英語を「聴く」際には、早口のネイティブスピーカーの英文に置いて行かれずに、ついていくことが可能になります。

①→②を可能にするのが、まさに「前から力」です。そして、この「前から力」を鍛えるためには、「サイトラ」を繰り返すのが有効です。はじめのうちは、上記のように、スラッシュ「/」を入れて、ざっくりとした訳文を、スラッシュ「/」ごとに、書き出すのも有効です。しかし、慣れてきたら、書き出す必要はありません。区切りごとに英文を音読し、それに続いて、ざっくりとした日本語に変換しながら口に出してみるのです。

この「サイトラ」のプラクティスを徹底していくと、英語を英語の語順どおりに、前から解釈していく力が上がっていきます。そして、これにより、速読力が高まるばかりか、早口かつ長文の英文のリスニング力が劇的に上がっていきます。そのため、VERITASのカリキュラムにおいては、「サイトラ」はとても重要なプラクティスの1つに数えられています。

私たち日本人にとって、英語のリスニング力は、代表的な課題の1つです。しかし、リスニングは、「音を耳から認識する」ことだと単純化して理解してしまうと、上達には大変な回り道と時間を要します。実は、リスニング力アップには、「音」の面ばかりでなく、「前から力」の強化が必要なのです。

このことは、「私たち日本人は、リスニングが苦手なのか?」という課題について、より一歩踏み込み、根本的な原因を探ってみることで、効果的な対応策が明らかになる、良い例と言えるでしょう。

是非、皆さんも、「前から力」を意識して、リスニング力アップに取り組んでみてください。3ヶ月ほど集中して取り組めば、驚くほど、リスニング力のアップを体感できるでしょう。